Effect&Efficacy
シモンコライトの可能性を探る
2025.06.08
「シモンコライト」の力に迫る
いま、医療・美容業界で注目を集める「シモンコライト」という物質をご存じでしょうか?
この粉末は、酸化亜鉛をベースとした半導体材料を製造する過程で生じる副産物。しかし、最近では「傷をきれいに治す」「毛が生える」など、従来の常識を覆すような効果が次々に明らかになりつつあります。
この研究の最前線に立つのが、山形大学大学院 理工学研究科で「生体機能修復学研究室」を率いる山本修教授。医学と工学の両分野に精通し、かつては半導体の研究も行っていたという異色の経歴を持つ山本教授に、シモンコライトの正体とその可能性についてお話を伺いました。
傷の治療に革新をもたらす「シモンコライト」
従来、皮膚の深い傷を治療する際には、湿潤ゲルや医療用の創傷被覆剤が使われてきました。しかし、これらの方法は治癒に時間がかかり、完全に元通りに戻すことが難しいという課題がありました。
ところが、シモンコライトは違います。水に溶けることで軟膏状に加工でき、生体とほぼ同じpHで使用可能。治療後の皮膚に跡を残さず、自然に再生される点が非常にユニークです。
この効果のカギとなるのが、「亜鉛イオン」。シモンコライトは亜鉛を持続的かつ適度に放出することで、傷の内部に必要な成分を届け、皮膚の再生を促進します。
研究の結果、外科的な手術を行わずとも、シモンコライトを傷口に塗布し、創傷被覆剤で覆うことで、2週間後には健常な皮膚に近い状態にまで回復することが確認されています。しかも、通常の治療法では再生が難しいコラーゲンまで活発に再生されるというのです。
シモンコライト研究の裏側
JFEミネラルとの連携
シモンコライト研究のきっかけは、JFEミネラル株式会社との技術連携にありました。もともとはガスセンサー関連でのやり取りから始まり、同社が保有する「シモンコライト」「ハイドロジンカイト」などの興味深い素材に山本教授が注目。そこから共同研究がスタートしました。
研究を進める中では、シモンコライトが水に溶けにくいという性質を克服するため、粒子をナノサイズにまで細かくする必要がありました。さらに、攪拌条件や加工プロセスの最適化など、実用化への課題も多かったそうです。
亜鉛が導く皮膚再生のメカニズム
傷の治癒において、亜鉛イオンが持つ生理活性は非常に重要です。マトリックスメタロプロテアーゼ(MMPs)の活性化や細胞の分化促進、さらには血管新生に関与するインターロイキン-6の誘導など、複数の経路で組織修復をサポートします。
とくに皮膚の再生には血管の導入が不可欠。シモンコライトは、そうした生体反応を的確に引き出すことで、深い傷でも跡を残さず、正常な皮膚に再生させるのです。
皮膚が再生されると、毛も生える
ここからがもう一つの注目ポイントです。
山本教授によれば、シモンコライトを用いて再生された皮膚には、**毛包(もうほう)**という毛の根本を形成する組織が確認されており、実際に毛が生えてくることが観察されたとのこと。
これは、亜鉛イオンの局所投与によって皮膚内の幹細胞が毛包へと分化するため。一般的な創傷被覆剤だけでは見られない反応です。
つまり、シモンコライトは「傷を治す」だけでなく、「毛が生える」環境まで整えてしまうという、まさに一石二鳥の素材なのです。
医工連携の意義と未来
「傷を治す」と聞くと医学部の領域のように思われがちですが、山本教授の研究は工学部の枠組みで行われています。近年では、セラミックスやゲル、医療診断機器を含む「医工学」という分野が発展しており、医療と工学の融合は世界的な注目を集めています。
山形大学でも、生体機能の修復や再生をテーマに、皮膚・骨・神経・血管など多様なターゲットに向けた研究が進められています。
シモンコライトの応用は化粧品分野にも
こうしたシモンコライトの力に注目し、テイカ製薬では化粧品への応用もスタート。毛髪の成長促進を目的とした製品開発が進められているといいます。
実際、秋田県では“塗ると毛が生える”と噂される植物もあるそうで、ミノキシジルに代わる成分の発見が、地方から生まれる可能性にも期待が高まります。
まとめ
医学と工学の垣根を越えた「医工連携」がもたらす新たな可能性。傷をきれいに治すだけでなく、毛まで再生させてしまうシモンコライトは、今後の医療・美容分野におけるキープレイヤーとなるかもしれません。