亜鉛と新型コロナウイルス感染症の関係とは?

 現在も全国的に感染の勢いが止まらない新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)ですが、感染時に無症状の患者がいる一方で、重症化したり後遺症に悩んだりする人も多くいます。
 新型コロナに対して、これまで様々な食品や栄養素、サプリメントを含めてその効果が検証されてきました。生体にとって必須ミネラルである亜鉛についても、抗ウイルス作用や新型コロナに対する症状改善効果が報告されています。
 この記事では、亜鉛の役割や亜鉛と新型コロナの関係、新型コロナウイルス感染症による後遺症(以下、コロナ後遺症)での上咽頭擦過療法(EAT)の有効性を示した論文を紹介します。

COVID-19イメージ

亜鉛の役割

 亜鉛は「必須微量ミネラル」と呼ばれ、体に必要な栄養素の1つです。皮膚や骨、歯、筋肉、臓器など体のいたるところに存在しており、アミノ酸から必要なタンパク質を作ったり、DNAの合成や細胞分裂をしたりするときに使われています。
 亜鉛は体内で作ることができないため、厚生労働省では牡蠣や豚レバー、カシューナッツなどの食品を積極的に摂取するほか、サプリメントで効率良く摂取することを推奨しています。

※亜鉛サプリメントを服用する際は、過剰摂取は抑え使用量をご確認ください。

亜鉛が不足するとどうなる? 亜鉛欠乏症とは?

 亜鉛は体のさまざまな部位で活躍するので、その亜鉛が不足すると、味覚異常、皮膚炎、脱毛、貧血、口内炎などの症状が現れます。これらの症状があり、血液検査でも亜鉛の数値が低い場合は「亜鉛欠乏症」と診断されます。
 亜鉛欠乏症は、新型コロナとの関連が多数報告されています。日本国内では、長期の「亜鉛不足」が新型コロナの重症化の危険因子である可能性が報告されています1)。特に高齢者や糖尿病患者は、日常的に体内の亜鉛濃度が低い傾向にあるため、日ごろから亜鉛やビタミンなどを摂取することが重要です。

亜鉛は、新型コロナなどのウイルス性感染症対策になる?

 亜鉛は体の中で免疫機能を維持する役割を担っています。そのため、亜鉛が不足する(亜鉛欠乏症になる)と風邪を引きやすくなったり体調を崩しやすくなったりしてしまうのです。
 最近の研究では、亜鉛は免疫細胞の働きを活性化させて、亜鉛が足りなくなると獲得免疫の働きが低下することが分かってきました。細胞内の亜鉛の濃度が上昇するとインフルエンザなどのRNAウイルスの複製を阻害することが分かっており、2010年に報告された基礎研究では、亜鉛とビリチオンを低濃度で組み合わせることで新型コロナウイルスの複製を阻害したとのデータもあります。2)
 また、亜鉛は新型コロナの症状改善効果を示すことも分かってきました。
 新型コロナ感染症患者に高用量の亜鉛を含んだトローチを摂取した24時間以内に、新型コロナの症状軽減が4例認められたという報告があります。その他にも有用性エビデンスが報告されており、新型コロナ対策としての亜鉛の意義について下記が示唆されています。1)

新型コロナ対策としての亜鉛の意義
  1. 抗ウイルス作用
    • ウイルスの複製や侵入過程での抑制作用、IFN産生の促進作用など
  2. 呼吸器感染症のエビデンス
    • 亜鉛不足は感染症リスクを上昇させます。また、亜鉛の摂取によって成人での風邪の罹患期間の短縮(メタ解析)や小児の肺炎罹患率を減少させています。
  3. 新型コロナにおける亜鉛の臨床的な意義
    • 新型コロナに罹患した日本人患者の重症化因子のひとつとして亜鉛低値が挙げられています。また、亜鉛不足の新型コロナ患者は予後不良であるといわれています。
    • 亜鉛摂取によって24時間後の症状の改善や院内死亡率が低下した事例も報告されています。


 以上のことから、ウイルス性の感染症の予防・対策として積極的に亜鉛を摂取することが勧められています。これからの季節、新型コロナだけでなく、インフルエンザなどにもかかりやすくなります。亜鉛不足の症状を感じている人は、積極的に摂取してみましょう。

コロナ後遺症に上咽頭擦過療法(EAT)が有効な可能性がある?

 2022年9月11日に開催された「認定NPO法人日本病巣疾患研究会第10回学術集会」のシンポジウムのひとつでコロナ後遺症に対する上咽頭擦過療法(以下、EAT)の有効性が示唆されました。
 EATとは、0.5%〜1%塩化亜鉛を浸した綿棒などで上咽頭を優しくなぞることで炎症を鎮静化する治療です。(図1)
 上咽頭は鼻の一番奥にあり、上咽頭の一部には免疫細胞が集まっており、ウイルスに感染するとこの部分が炎症を起こし、のどの腫れや違和感などの症状が現れます。

図1)上咽頭擦過療法(EAT)

 EAT治療と新型コロナに関する論文を紹介します。
 コロナ後遺症外来を受診したコロナ後遺症患者58例(13~68歳、平均38.4±12.9歳、PCRによる新型コロナ診断後、2ヵ月以上症状が持続、いずれも新型コロナウイルスに感染したあとの上咽頭における炎症残存がコロナ後遺症に関与している可能性を考慮)にEATで治療介入を行ったところ、週1回、1ヶ月間の治療で上咽頭炎が改善傾向になることが認められました。3)(図2)
 また、コロナ後遺症で頻度が高いとされる倦怠感(疲労)、頭痛、集中力の低下の変化に対してもEATで改善傾向を示しており、EATが有効である可能性が示されました。(図3)

図2)EAT治療による効果【炎症】

コロナ後遺症患者の初診時およびEAT投与1ヶ月後に、全例に内視鏡検査を実施。内視鏡所見に基づき炎症のグレードを0〜6でスコア化(0:炎症なし、1〜2:軽度の炎症、3〜4:中程度の炎症、5〜6:重度の炎症)。重症者が減り、軽症者が増えて全体的に改善傾向が見られます。

EAT治療による効果【炎症】

図3)EAT治療による効果【疲労/頭痛/集中力低下】

疲労、頭痛、集中力低下の重症度(0:症状がない、10:最も重症度が高い)をVASで評価し、EATの有効性解析を行いました。EAT投与1ヶ月後では、VASスコアの平均値が疲労/1.61倍、頭痛/1.93倍、集中力低下/1.48倍低くなり、症状改善が認められました。

EAT治療による効果【疲労/頭痛/集中力低下】
※ P < 0.05 で有意差

 現状ではランダム化比較試験が行われていないため、今後も追加検討していく必要がありますが、この結果でも亜鉛の有効性が期待される結果となっています。

まとめ

 今回は亜鉛と新型コロナの関係を示すいくつかの論文を紹介しました。新型コロナウイルスが世界的な流行を見せ数年経ったことで、治療法や対策法についても徐々に有効な方法が見つかりつつあります。
 亜鉛は髪や肌に欠かせない成分ですが、同時に免疫機能にも重要な働きをします。亜鉛不足を感じている人は、感染症対策として、亜鉛を取り入れてみてはいかがでしょうか。


参考
1)蒲原 聖可:新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の予防および治療に関する亜鉛の臨床エビデンス . 医と食 2021 ; 13 ; 51 – 59
2)蒲原 聖可:新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策における機能性食品成分の臨床的意義:ナラティブ・レビュー. Functional Food Research 16:40︲50,2020
3)Imai K, Nishi K et al. Viruses. 2022; 14(5): 907.