亜鉛と毛髪(とくに円形脱毛症との関係について)

亜鉛の約8%は皮膚や毛髪に存在し、表皮の蛋白合成に関係が深い元素です。このため亜鉛の不足により、皮膚炎や口内炎・脱毛などの症状をきたすことが知られています。
脱毛に関して、亜鉛欠乏による脱毛症は機械的刺激(こすれるような刺激)を受けやすい部位である、後頭部に発生しやすいとされています。また円形脱毛症の方でも、血清亜鉛値が健康な人と比較して低値の場合が多かったことが報告されています。

円形脱毛症に関して、亜鉛投与によって症状が改善するかどうかを調べた研究論文もあります。
ここでは一つの論文を紹介します(Oral Zinc Sulphate in Treatment of Alopecia Areata (Double Blind; Cross-Over Study) Sharquie et al., J Clin Exp Dermatol Res 2012

この研究では合計で67人の円形脱毛症患者を対象に、亜鉛とプラセボ(偽薬)を投与して6ヶ月間の効果をみています。約半数の37人(グループA)は最初の1〜3ヶ月目に亜鉛を投与し、4〜6ヶ月目はプラセボを投与されています。一方残りの30人(グループB)は1〜3ヶ月目にプラセボを、4〜6ヶ月目に亜鉛を投与されており投与順が逆になっています。亜鉛の投与量は体重1kgあたり1.14mg/日です。
研究の結果、最初の3ヶ月で亜鉛投与を受けたグループAでは59.5%(22/37)の人に完全な毛髪再生が認められた一方、プラセボ投与を受けたグループBでは10%(3/30)にしか完全な毛髪再生は認められませんでした。
続いて4〜6ヶ月目の結果です。プラセボ投与を受けたグループAでは完全な毛髪再生が認められた人は59.5%(22/37人)→ 62.2%(23/37人)とほぼ変化がありませんでした。一方亜鉛投与を受けたグループBでは完全な毛髪再生が認められた人が10%(3/30人)→ 66.7%(20/30人)に増加しました。

Grade 0:発毛なし/Grade I:部分的な(細く薄い短い)発毛が見られた /
Grade II:完全な(硬く色素を含んだ長い)発毛が見られた

別の研究結果も見てみましょう。
(The therapeutic effect and the changed serum zinc level after zinc supplementation in alopecia areata patients who had a low serum zinc level. Ann Dermatol. 2009 May;21(2):142-6.)

こちらの研究ではまず44人の円形脱毛症患者で血清亜鉛値を測定し、低値(<70μg/dL)だった15人を対象としています。円形脱毛症の重症度について、86.7%(13/15人)はS1(脱毛面積が全体の25%未満)に分類されました。この15人に対して12週間50mg/日の亜鉛投与を行い、60%(9/15人)で改善がみられたという結果になりました。

1つめの研究との違いとして、1つめの研究では血清亜鉛値が低値でない例も含まれ平均血清亜鉛値は100.2μg/dLであった一方、2つめの研究では血清亜鉛値が低値の方のみを対象としている点があります。

これらの結果から、亜鉛補充は全員ではないにせよ円形脱毛症患者において一定の有効性が期待できること、またその効果は亜鉛の内服を止めてもある程度の期間持続すると期待できることがわかります。